不実な美女か貞淑な醜女か

ロシア語同時通訳者が書く通訳業をネタにした笑えるエッセイ。本文の少なくとも80%は読者を笑わせにかかっているので、それだけでも買う価値はある。
少し真面目なことを書くと、「翻訳者=システム開発者」の図式を当てはめてみると意外と共通点があることに気付かされる。
1.翻訳者は「母国語の文章→外国語の文章」に変換していることは、ITエンジニアが「母国語で表現される機能→プログラミング言語で表現される機能」に変換することに類似している。
2.通訳では、不要な情報を取り除いた後に母国語に変換することで、より的確に伝える事ができる。本文233ページ参照。これは、 ITエンジニアが無駄な仕様を削って必要な機能のみを実装することに類似している。
3.文脈を正確につかむために、通訳は相手国の発言者の専門分野のみならず文化についても調べるところがある。 これは、 ITエンジニアが仕様を必要十分な機能に落としこむ際、業務知識の流れを知ることに類似している。

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)

補足
大学院での担当教官に研究テーマのアイディアの出し方の1つに、「進んでいる研究分野の手法を別の(相対的にあまり進んでいない)分野に適用してみる」だった。
これを踏まえると、システム開発に比べて遥かに歴史のある翻訳業には学ぶことが多いといえる。